JG1WUQ 小西 克巳 忙中閑有り(電波受験界96年5月号より)

趣味がこうじてプロの資格まで取得してしまいました。この体験記が,これから受験されようとする方のお役に立てば幸いです。


忙中閑有り
電波受験界 96年5月号 「私はこうして合格した」より
(一陸技)小 西 克 巳


1.はじめに
平成7年9月16日。待望の『一陸技』合格通知が届きました。試験勉強を開始してから、実に一年後の出来事であります。通知に押されている「合格」という大きな二文字に我が目を疑いつつも、一年かけて成し遂げた満足感に酔いしれた日々を送っておりました。
そんな折り、『電波受験界』編集部の方より、何と光栄にも受験体験記「私はこうして合格した」の執筆依頼を頂いたのでした。毎月、『電波受験界』を購入しては、真っ先にこの頁を読み、そして励まされたいた私が、逆に執筆依頼を受けるなどとは夢にも思いませんでした。とても身に余る思いです。拙い私の受験体験記ではありますが、少しでも皆さんのお役に立てば幸いと思い、筆を執った次第です。

2.無線との出会い
これまで、この欄に登場された諸先輩方がそうであったように、私も子供のころから電気、とりわけラジオに興味を持ち、「初歩のラジオ」などの製作記事を見ては、見よう見まねでラジオ作りを楽しんでおりました。
自分で組立た短波ラジオにワイヤーアンテナを付け、恐る恐るダイヤルを回すとスピーカーから聞こえる海外の声、何とも言えない不思議さと感動を味わい、興味は次第に電波へと移って行きました。
ハム、すなわちアマチュア無線という言葉を初めて耳にしたのも、丁度この頃からでした。
中学校に入るやいなや、クラスメイトでハムを楽しんでいる人がいることを知ると、早速家におしかけ、無線機などを見せて貰ったものでした。当時の無線機は、今とは違いオール真空管で、もちろん送信機と受信機が別々のセパレートタイプ。机の上を占領しているこれらは、いかにも無線機という風貌そのものでした。
「これが無線機か!」と目を輝かして見ている私の脇で、友人がスイッチを入れると、受信機からは遠く九州からの電波が大変強く入感。そして、慣れた口調で交信を始めたのでした。その姿は大変格好良く、また、当時北海道の北見市に住んでいた私にとって、北海道と九州がいとも簡単に交信できることは、自作のラジオで海外放送を初めて聞いた時以上に感動し、やがてハムに対する憧れが募って行ったことを、今でもはっきりと覚えております。これがきっかけとなり、その後電話級(4アマ)から段階を踏み1アマまで取得、ワイヤーアンテナと小電力で日本各地と交信できる無線の世界に魅了されて行きました。

3.プロの資格に挑戦
アマチュア無線を楽しむ年数が増すにつれ、プロの無線従事者である『通信士』や『技術士』などに憧れを抱くようになりましたが、その存在は、私にとって雲の上のものでありました。ましてや、自分自身が『一技(一陸技)』に挑戦し、これを取得できるなどとは考えもしませんでした。
そんな折り、多忙な日々の中でも時間を見つけ勉強し、その結果を見える形で残したいという気持ちが起き、学生時代電気工学を学んだことから、手はじめに電験3種に挑戦。運が良いことに初挑戦で合格することができました。人間不思議なもので、ひたすら勉強している間は、その苦しさから「もうやめたい」と思っていたにもかかわらず、いざ合格してみると、また新たな挑戦をしたくなるようです。次は電験2種に挑戦と思っていた矢先、偶然にも、書店で数年ぶりに『電波受験界』を手にし、その時最初に目に飛び込んだのが「私はこうして合格した」でした。そこには、『一陸技』取得までの苦労と、これを乗り越え手にした喜びが延々と綴られたおりました。
これを読むや否や私の脳裏には、これまで忘れていたこの資格への思いが鮮明に映し出されるとともに、挑戦してみようという新たな気持ちが奮い立ったのでした。「二兎を追う者は一兎も得ず」のことわざ通り、私の能力では2つの資格を平行して挑戦するのは無理と判断、電験2種はあきらめ『一陸技』一本に的を絞ることとしました。
また、ちょっとやそっとの努力で受かる資格では無いこと、受けるからには最後まで頑張りたいという気持ちから、次の点を心がけ予備試験と本試験の勉強を開始しました。
(1)毎日30分でも勉強すること。(2)時間は工夫して自分で作り出すこと。(3)作り出した時間は大切に使うこと。(4)最初は解けない問題があって当然、絶対に途中で投げ出さないこと。(5)継続は力なり。

4.予備試験
予備試験は出題範囲が広いこと、また問題数が多いことなどを考慮すると、最も大変な科目の一つかと思います。よく「予備試験に合格したら半分合格したようなもの」と言われますが、まさしくその通りかと思います。何と言っても、これに受からなくては、本試験が受けられないのですから。
予備試験の勉強には、電気通信振興会の『第一級陸上無線技術士国家試験問題集』と東京電機大学出版局の『無線従事者試験問題の徹底研究』の2冊を併用しました。前者は、最新の出題問題まで載っていること、また後者は最新の問題まで載っていないものの、回答の解説が詳細に記述されており、更に一総通の問題も載っていることから、これを用いました。
勉強方法は、『一陸技』と『一総通』の既出問題を繰り返し解くこと、また併せてサブノートの作成を行いました。この際、その問題の答えを覚えるのではなく、答えを理解するよう心がけました。従って、サブノートには問題とその答えを書くのではなく、解けない問題を回答するのに必要な公式や解説、関連事項を「自分の言葉で」且つ「重要事項が見易いように」記述し、問題集を最初に解く際平行してこれを作成しました。最初に作成したのは、
問題集を繰り返し解くにつれ、うる覚えのものでも分かった気となり、最後までそのままになってしまうのを恐れたからです。このサブノート、作成するには大変な労力を要しましたが、試験直前や試験当日に威力を発揮しました。何と言っても、ノートには自分の弱い点が整理されているのですから。
最終的に既出問題を5回程繰り返し勉強し、試験にのぞみました。
平成8年度の試験からは、予備試験は廃止され本試験の一つとなりますが、基本的な勉強方法は変わらないのではないでしょうか。

5.法規
本試験の勉強も予備試験と平行して開始しました。その中でも法規は、1アマ・2アマ受験の際に覚えた内容のものもあったため、比較的勉強に入りやすい科目でした。勿論、座右の参考書は『第一級陸上無線技術士国家試験問題集』です。ただ、この問題集は、全科目納められているため大変厚く、また、年度ごとに出題問題がまとめられているため、そのまま使用すると、特定問題が頻繁に現れ全問題を効率良く勉強できません。このことから、問題集をコピーしオリジナルの法規問題集を作成しました。オリジナル問題集は、ノート1頁1問とし、上部に問題その下に回答を貼り付け、更に問題の所には過去の出題年月も併せて記入しました。こうすることにより、その問題の出題頻度や出題間隔などが明確となり大変参考になります。

6.無線工学
無線工学関係は、これまでの諸先輩方々同様、最近3回分を除いた既出問題のうち過去10年分について勉強しました。ただ、多くの先輩方と異なるのは、過去の出題傾向を分析し山をかけたり、本誌受験研究室の予想問題を集中的に勉強するとういうやり方ではなく、予想問題は参考にしつつも、前述の問題全てを勉強するという方法を採った点です。こうすると、問題数はかなりの数に登りますが、同じ科目を2度受験したくない(受験するからには、絶対に科目合格する)との思いから、大変なのを覚悟であえてこの様な要領の悪い方法をとりました。
当初、受験料が高いことや挑戦するからには一回で受かりたいとの思いから、無謀にも予備試験を含めた全科目につき勉強を行っておりましたが、冒頭述べた通り、この資格はそんなに甘くはなく、このままでは全て共倒れになると判断、途中からは法規と無線工学Bの2科目に絞り勉強を続けることとなりました。この2科目を選んだのは、同一日に試験が行われるとの理由からでした。
無線工学も前述の法規と同様、科目毎のオリジナル問題集を作成し、これを活用することとしました。特に計算問題に関しては、コピーした答えをそのままノートに貼り付けるのではなく、最終的な答えが導き出される計算過程も手書きで書き込む様にしました。また、工学系の学科を卒業しているとはいえ、恥ずかしいことに計算に必要な数学の公式など忘れているものもかなりあり、これらも含め参考となる事項を余白に記入する様にしました。既出問題を繰り返し解き覚えて行くのですが、計算過程がその時分かった気になっても、1週間や2週間後に解いてみると忘れているということが往々にしてあります。その様な時、計算過程もノートにまとめておくと、余計な時間を消費しなくてすむこととなります。この事は、勉強時間を何とか創出している者にとっては大切なことかと思います。勉強方法(覚え方)は、人それぞれ自分に合ったやり方が有ろうかと思います。ひたすら読んで覚える方法、テープなどに吹き込んで覚える方法などなど。私は、ひたすら『書いて、書いて、書きまくり』覚えました。30代も半ばになると20代前半の時とは異なり、読んだときは覚えたつもりになっても、いざ書こうとしても書けない(覚えていない)ということが多々あります。この為、実際に手を動かし覚えることとし、その際次の点を心がけました。

(1)ただ闇雲に書くのではなく、一度熟読し理解してから書く。(2)書く際は口に出しながら書く。(3)計算問題などは途中(過程)を省略しない。
また、書く紙はノートではなく、新聞の折り込み広告の裏面やコピー紙の裏面を利用しました。これは、とにかく書きまくるので紙がもったいないという理由も有りますが、一番の理由は、ノートなどに書くとどうしても綺麗に書こうという点にばかり注意が集中し、本質的な点が欠けてしまうからです。また、この時点では、工夫したオリジナルノート(問題集)は作成済みですので、ノートに書きまくったとしても後から見ることもないという理由もあります。
更に書く際は、鉛筆などは用いずインクの見えるボールペンを使用しました。ボールペンだと手首が疲れにくいということも有りますが、最大の理由は、勉強量に比例したインクの消費量が目視できる点です。受験勉強は非常に孤独であり、時には本当に大丈夫だろうかという不安に掻き立たれることがありますが、その様な時、インクの減り具合を見ては「これだけやっているのだから大丈夫」と自分自身に言い聞かせるようにしておりました。
難しいことに挑戦していると、人間往々にして途中で投げ出したくなることが有りますが、一歩一歩こつこつ努力することも肝心かもしれません。

7.受験される方へ
ところで、受験される方、特に社会人の方々は、ごく一部の人を除いて十分な勉強時間を確保するのは非常に難しいことであり、ましてや、家庭を持っているとなおさらかと思います。会社から帰宅後の時間や休日を全て自分の時間に充てる事など困難であり、ご苦労もより一層有ろうかと思います。私自身もご多分に漏れずその様な身でありました。その様な状況下、思い出したのが表題に書かせて頂きました『忙中閑有り』という言葉です。これは、以前上司だった方が好んで使われた言葉であります。当時はこの言葉を余り気にせず聞き流しておりましたが、今回改めてこの言葉の持つ意味を実感しております。何かやろうという時、「忙しいから時間がない」と口にし逃げてしまうことが多々有りますが、どの様な場合でも、それなりに時間はある、いや、その気になれば作り出せるものです。
ただ、時間の作り出し方そのものは、その方の置かれている状況下により様々かと思います。是非、自分に合った時間を作り出し頑張って頂きたく思います。
また、今改めて合格の秘訣というものが有るとしたら何かと考えてみると、それは暗記や出題傾向を探るテクニック等ではなく、「絶対に合格するぞ」という強い意志ではないでしょうか。「為せば成る為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」ということわざがありますが、正しくこの通りかと思います。
そして、試験当日は採点官と勝負をしているような気分を味わい、試験そのものを楽しむようにしようではありませんか。

8.おわりに
少年時代遠い存在であった無線技術士、そして自分自身将来とれるとは思ってもいなかった『第一級陸上無線技術士』という資格、今、合格通知と従事者免許証を前に改めて喜びに浸っております。今回の受験を通して、何事も楽な方に流れるこの時代、無線従事者の資格に限らず、自分自身をこの様な厳しい状況におき目標に向かってひたすら頑張り通すということは大変有意義なことだと痛感じた次第です。私自身、次なる目標に向かい邁進したいと思っております。
最後になりましたが、この1年間陰でひたすら私を支えてくれた愛妻と、父親の勉強の邪魔をしないようにと気をきかしてくれたり、時には寂しい思いをさせた二人の愛娘に心から感謝し結びとさせて頂きます。

——- 出願から免許証取得まで ——-
平成6年10月 一陸技願書出願
12月 一陸技予備試験(合格)
平成7年1月 無線工学B、法規 受験
3月 無線工学B、法規
(科目合格)
7月 無線工学A 受験
9月 一陸技合格通知
10月 一陸技免許証取得


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