加藤 武峰氏 『第一級陸上無線技術士受験体験記』
文系出身の筆者が「1陸技」取得までの道のりを語られています。
第一級陸上無線技術士受験体験記
加藤 武峰氏
1 はじめに
私は、どこにでもいるタイプの平凡な中年男性です。高校時代は理系のクラスに在籍していましたので純粋な文系というわけでもないのですが、最終学歴は大学法学部卒で、現在の仕事の内容は100%事務系です。中学生時代からラジオの製作、BCL活動などを経て四半世紀以上アマチュア無線を趣味としていますが、このたび2回の受験で憧れの一陸技に合格することができました。
学習をするのにあたり、なかなかいい参考書が見つからないという話を聞くこともありますが、私は択一式移行後の4年間の過去問を中心に勉強して合格することができました。
マグレ合格の可能性も高く、あまり参考にならないとは思いますが、受験の体験を簡単にまとめてみました。なお、一陸技とともに、二陸技も同時受験しました。
2 受験のきっかけ
平成11年9月の中旬です。何を思ったのか、四半世紀以上前からの憧れであった通信士の資格を取得しようと書店に立ち寄りました。当初の目標はとりあえず三総通の取得だったので過去問を探しましたが見ありません。そこで見つけたのは「合格精選300題 第二級陸上無線技術士試験問題集(東京電機大学出版会)」でした。二陸技なんて絶対無理だと思いつつ、無線関係の書籍が他にほとんどなかったので、仕方なく(?)買って帰り、パラパラめくる程度に工学基礎と法規を勉強していました。ところが、しばらくすると何となく理解できるようになり、もしかしたら二陸技に合格できるかもしれない?という気がしてきました。
そこで、二陸技に合格するためには一陸技の勉強もしておいた方がいいという軽いノリで「合格精選300題 第一級陸上無線技術士試験問題集(東京電機大学出版会)」を購入し、平成12年1月期に2陸技の2科目科目合格を目指すことにしました。
10月中旬になり、願書の準備をする時期になりました。二陸技だけのつもりで勉強していたわけですが、少しずつ欲が出てきました。ダメモトの心境で、一陸技も一応受験だけはしてみようと、願書を提出することにしました。
3 工学基礎・法規(平成12年1月期)
願書を出せば気合いが入ります。「無線従事者国家試験問題解答集(一・二陸技、一総通用)(電気通信振興会)」を購入し、最近の問題が掲載されている「電波受験界」のバックナンバーも入手しました。とにかく空いた時間に1問でも多くの問題を解くようにしました。
工学に出てくる複素数、三角関数、微・積分、指数・対数関数などは約20年ぶりに格闘したでしょうか?学生時代を振り返ると懐かしくなり、結構楽しく勉強できました。正直言って、苦痛より快感に近いものさえありました。
といっても、バリバリの理系の方のように、正面きって難解な計算問題に取り組む実力も勇気もありません。とにかく過去問を何回もやり、問題の傾向や出題のクセを把握することに重点を置きました。みなさんもよく言われていますが、次元の違う選択肢を落としたり、特定の条件値(θ=0、R=∞など)を入れてみることなどを最初に考え、楽をして(?)与えられた5つの選択肢を2~3に絞り込むようにしました。
法規はアマチュアの知識がありましたので、過去問を4~5回読んだだけでした。ちなみに、私は一応(?)法学部出身ですが、もちろん電波法など学校で学ぶわけもなく、特に理系の人より高得点というわけでもなかったようです。余談ですが、プレエンファシス、ディエンファシスという言葉の意味は当時全くわからず、試験当日も意味不明のまま解答しました。
この期の受験結果は次のとおりでした。
一陸技 基礎 A問題 16/20 B問題 24/25
法規 A問題 12/15 B問題 21/25
二陸技 基礎 A問題 20/20 B問題 24/25 ・・・惜しい!あと少しで満点
法規 A問題 15/15 B問題 23/25
冷やかし半分で受けた1陸技の2科目が科目合格になってしまったので、後に引けなくなってしまいました・・・。
4 工学A・工学B(平成12年7月期)
この年の2月には航空通、3月には三総通を受験しましたので、陸技の勉強は約2ヶ月間お休みです。これらのクラスについても過去問のみ勉強しました。三総通の勉強をするにあたり、二総通の問題も解くようにしました。特に二総通の工学A・Bは陸技の基礎固めとなるよう完璧にこなしました。
この2ヶ月間は一見無駄のように見えますが、私はこの期間の学習が今回の合格につながったのではないかと分析しています。下級から上級へとステップを踏んでいくことは、言うまでもなく学問の基本です。ある程度の知識・経験をお持ちの方でも、いきなり一陸技の問題は厳しいのではないでしょうか。なお、航空関係については、陸技の新問として出題される場合でも、航空通の知識があれば楽勝のことが多くあります。
三総通の試験を終え、3月下旬からいよいよ工学A・Bにとりかかりましたが、4ヶ月ではじっくりと参考書を読む時間もありません。それ以前に、何を読んでいいのかがわからないのです。
基礎同様、一・二陸技、一総通の過去問を反復学習することに徹しました。とりあえずこれだけでやってみよう。だめだったら弱点を見つけて基本からやり直そう。2陸技の工学Bだけでもクリアできれば祝杯だ。そう開き直って本番に臨みました。矛盾するようですが、絶対合格するんだという決意は忘れないようにしました。
いよいよ試験当日です。午前の工学Aですが、最初問題を見て焦りました。問題用紙をめくって見ても、できそうな問題が皆無なのです。これまでに、新傾向の問題がこれだけ多かったことはなかったのでは?と落胆してしまいました。試験時間を全て使って何とかマークシートを埋めましたが、全く自信がありませんでした。
(工学Aは苦手な科目で、二陸技においても終了後「ダメだ!」と叫んだ次第です。)
午後の工学Bは好きな科目でもあり、その上に自分の得意な分野からの出題が多く、試験時間中に心の中で「やった!」と叫んでしまいました。こちらは新問が出尽くしたのでしょうか、徐々に簡単になっている気がするのですが・・・。今回、会場に計算尺を持ち込みましたが、特に工学Bの試験では重宝しました。乗除・開平計算だけでもマスターしておくと心強い味方になります。何よりも精神的に安心できます。お持ちの方は、是非活用されることをお勧めします。そして、8月下旬のある日です。届いた2通のハガキを恐る恐るめくると、一・二陸技共に「合格」の2文字でした。本当に合格したのだろうか?何かの間違いではないだろうか?と何度も思いました。夢が現実になった日です。この感激は恐らく一生忘れられないでしょう。皮肉なもので、合格通知をめくった約30分後に「注文されていた無線の本が入荷しましたよ。」
と書店から電話が入りました。次期受験のために注文していたものです。
結果は次のとおりでした。
一陸技 工学A A問題 13/20 B問題 19/25
工学B A問題 16/20 B問題 20/25
二陸技 工学A A問題 14/20 B問題 19/25
工学B A問題 17/20 B問題 23/25
5 今後の計画
合格を知った2日後、ある先輩一陸技の方と電話で話したところ、「これからが大変ですよ。」
と言われました。最初は意味がわからなかったのですが、「もっと勉強しなさい!努力を怠るな!」という趣旨だと理解しています。
現在、一陸技取得者は全国に30,000人近くいらっしゃるでしょうか?自分では、30,000人中30,001番目の一陸技と認識しています。(要は、話にならないレベルということ。)
しかし、他の先輩方の顔に泥を塗るような行為・発言は慎まなければなりません。
その昔お会いしたことのある何人かの一陸技の方々は、本当にいろんなことをよく知っていました。「マグレで受かったのだから何も知らないよ。」なんてことを言わないように、これからも自己研鑽していく所存です。
一陸技を取得していると一総通の工学系科目は免除になります。おかげで、後日一総通にも合格できました。
今後は、2科目免除の特典を活用し、一伝交の取得も目指したいと思います。有線系は苦手なので、2~3年計画でじっくり取り組むつもりです。
6 最後に
冒頭にも述べましたが、私は中年のオジサンです。試験会場を見渡すと、同年代の方もたくさんいらっしゃいました。職場では働き盛りで仕事に追われ、家庭では家族サービスに追われ、劣悪な住宅環境で勉強時間もろくに確保できず、頭脳の回転もかなり低下している方も多いはずです。(失礼!自己紹介?)
しかし、若い世代に負けずにみなさん頑張ってます。少ない時間をいかに有効に使うかは年を重ねるほど上手になっていくと思います。
手前味噌で恐縮ですが、私は、どんなに忙しくても、どんなに疲れていても、どんなに眠たくても、どんなに遅くまで飲みに行こうとも、毎日必ず工学の勉強をするように努めました。習慣とは、怖いもので合格後もしばらくの間、朝起きたら無意識に工学書に手が伸びてしまいました。「もう年だから受かるわけないよ」なんて思っていませんか?やってみないとわかりません。やればきっとできるはずです。また、若いみなさんには私たち以上の可能性があります。やれば必ず成果が返ってきます。それは信じていいと思います。
近年のインターネットの発達には目を見張るものがあります。以前なら独学しか考えられなかった環境の方でも、インターネットを活用すればすばらしいホームページとすばらしい指導者・仲間に出会うことができます。
無線従事者資格の館(管理者:小西 克巳氏)
http://www.musen-shikaku.com/
このホームページには特にお世話になりました。ホームページには自由に発言できる掲示板が用意されていますが、参加されている方々もすばらしい紳士淑女の方ばかりです。
ここで知り合った先輩方からの多くのアドバイス、同じ境遇の仲間たちからの激励などをいただき、今日まで勉強が継続できました。
この場を借りてお礼を申し上げます。
【参考】
★ 無線従事者資格取得歴
昭和49年4月期 電話級(現第四級)アマチュア無線技士 合格
昭和51年4月期 電信級(現第三級)アマチュア無線技士 合格
昭和51年4月期 第二級アマチュア無線技士 合格
昭和57年4月期 第一級アマチュア無線技士 合格
昭和58年8月期 電話級(現第四級海上)無線通信士 合格
平成12年1月期 第一級陸上無線技術士 科目合格 (工学基礎、法規)
平成12年1月期 第二級陸上無線技術士 科目合格 (工学基礎、法規)
平成12年2月期 航空無線通信士 合格
平成12年3月期 第三級総合無線通信士 合格
平成12年7月期 第一級陸上無線技術士 合格 (工学A、工学B 受験)
平成12年7月期 第二級陸上無線技術士 合格 (工学A、工学B 受験)
平成12年9月期 第一級総合無線通信士 科目合格 (電気通信術)
平成12年9月期 第二級総合無線通信士 科目合格 (法規、英語、地理)
平成12年10月 第二級総合無線通信士 合格 (全科目免除)
平成13年3月期 第一級総合無線通信士 合格 (法規、英語、地理 受験)
★ 使用した書籍等
2陸技1・2総通受験教室1 無線工学の基礎Ⅰ 東京電機大学出版局
2陸技1・2総通受験教室2 無線工学の基礎Ⅱ 東京電機大学出版局
2陸技1・2総通受験教室3 無線工学A 東京電機大学出版局
2陸技1・2総通受験教室4 無線工学B 東京電機大学出版局
(1・2は一通り読みましたが、3・4は買っただけで全く読んでいません。)
合格精選300題 第一級陸上無線技術士試験問題集 東京電機大学出版局
合格精選300題 第二級陸上無線技術士試験問題集 東京電機大学出版局
無線従事者国家試験問題解答集(一・二陸技、一~三総通、航空通)
電気通信振興会 (いずれも、選択式移行後の問題のみやりました。)