加藤 武峰氏 『第一級総合無線通信士受験体験記』
文系出身の筆者が「1陸技」取得後、工学免除を生かした「1総通」合格の体験記が紹介されています。
- はじめに
私は中年の文系公務員です。中学生時代からアマチュア無線を楽しんでいますが、一時期通信士になりたいという夢を持ったことがあります。
しかし、普通科高校から大学も全く専門外(農学部、法学部)に進学したため、その願いもかなうわけがなく、この歳になってしまいました。
それでも何を思ったのか突然、通信士になるのは無理でも、資格だけでも取得しようという気になりました。
平成11年9月のことです。以後、航空通、三総通、一・二陸技を取得し、平成12年9月期に一総通の電気通信術、二総通の法規、英語、地理を科目合格したことにより同年10月に全科目免除で二総通を取得し、平成13年3月期に一総通の法規、英語、地理を受験し合格しました。
一陸技取得までのことは「第一級陸上無線技術士受験体験記」に書き留めていますので、今回は、工学系免除の特典を活用して取得した第一級及び第二級総合無線通信士の受験体験をまとめてみました。
総合無線通信士を受験される方の参考になるような内容にしたかったのですが、マグレ合格の可能性大なのであまり参考にならないと思います。 - 工学系
これは一陸技取得による免除を活用したため受験していません。もっとも、陸技の工学を勉強する際に、通信士の工学も問題集を2〜3回やりました。
ここで感じたことを申し上げます。一般に試験のレベルは「一陸技>一総通>二陸技」とされていますが、私には、一陸技と一総通の難易度は上位と下位の関係では整理出来ないように感じました。陸技の勉強をしていて、問題の狙いや趣旨が通信士と技術士で違うような感じをうけました。(特に工学A)工学Aでわからないことが多くて悩んでいたときに、ある方から「陸技と通信士では傾向が違うから、思い切って通信士の工学は捨てて陸技に絞ったら?」とのアドバイスをいただきました。
この時点で通信士の工学の問題集を開くのをやめたわけですが、それによりかえって(受験のための知識は)早く理解でき、予想以上に早く一陸技に合格できたのではないかと思うこともあります。
また、陸技は受験仲間が多く、お互いに励まし合いながら楽しく(?)勉強できますが、通信士の勉強は孤独です。
多くの場合、通信士に合格したらその後に一陸技を狙う気になると思いますので、仮に現時点でその気がなくても、一陸技の勉強を一通りはされることをお勧めします。そして、一陸技に合格できればあとは気が楽になります。 - 電気通信術
モールス通信が最大の難関です。モールスは平成11年9月から約1年間、週休1〜2日のペースですが、毎日最低でも30分間は、受信を中心に訓練(勉強というよりこの言葉がふさわしい?)しました。【モールス受信】
昭和57年に一アマを取得していたので、和文モールスも覚えていたハズ(?)です。しかし、ほとんど忘れていたので、レッツホレというフリーソフトを使用して一から(イから?)覚えました。
欧文はアマチュア無線のコンテストなどで毎分150文字以上で交信することもありますが、要点だけの暗記受信のため筆記に苦労しました。アマチュアの試験のときのように大文字のブロック体では話にならないので、まず、小文字の筆記体から覚えなければなりませんでした。
字体については、ブロック体がいいとか筆記体がいいとか諸説あります。また、素早く正確に筆記するためのテクニック等もいろいろと紹介されています。しかし、個人差がありますので、あまり他人の意見を鵜呑みにするのもいかがなものかと思います。訓練を続ければ、必然的に自分に合ったテクニックが身に付くと思います。
訓練は最初、ACW社(今はない)のテープ(和文85-90文字、欧文120-130文字)を購入し、もっぱらこれを使用しました。もちろん、初めはほとんど書き取れません。しかし、あえて速度を落とさずに練習しました。
2000年が開けたころから 電気通信振興会のテープ(一・二総通用、三総通用)も使用しました。
この年の3月には三総通に合格できました。
振興会のテープ(一・二総通用)ですが、実際の試験速度よりかなり早く感じました。これは完璧に聞き取れなくても悲観することはないでしょう。それから、このテープには欧文の「/」が出てきません。
試験には必ず(?)出ますので、改訂してもらいたいものです。
プロの試験では、特に額表で苦労される方が多いと思います。私も例外ではなく、非常に悩みました。
しかし、ある日突然苦痛にならなくなりました。これも毎日地道に訓練するしかないと思います。
試験前には、必ず受信用紙と同じ様式を使用して練習をしてください。その積み重ねはきっと花開くはずです。
最大の失敗は、約1週間ほどですが、書き取らずに流し受信をしたことです。これは百害あって一利なしです。
この1週間は何の収穫もないどころか逆に技術が低下したようです。受信の練習は必ず書き取るようにしたいものです。【モールス送信】
アマチュア無線をやっていたので、送信はあまり苦労しませんでした。学生時代はエレキーが高価で買うことが出来ませんでした。しばらく縦振れで交信していたおかげで基本的な技術は身についていたようで、20年以上経った今日でも送信だけはプロのレベルに達していたようでした。
もっとも、一総通の試験当日は備え付けの縦振れを使いましたが、自宅のボロ電鍵と違ってあまりにも快調に打てるので、調子に乗って早く打ち過ぎてしまい、試験官に「早すぎて符号がきたないよ」と注意されてしまいました。テキストとして「和文電報練習帳」「欧文電報練習帳」(電気通信振興課)を使用しました。
使用する電鍵は縦振れがいいか横振れ(エレキー)がいいかは議論され続けていますが、個人的には縦振れが好きです。もっとも、個人差があるので、これだけは自分で決めないといけないようです。モールスの効率の良い習得方は人によって違います。他人の意見はあくまでも他人の意見と思っていた方がいいでしょう。【直接印刷電信】
これは普段ワープロやパソコンを使っている人なら問題ありません。いくらたくさん打ち間違えても時間内に打ち終えたら合格のようです。打ち残しても少しなら合格のようです。私は、早く打つことだけを考え、恐らく30回以上は打ち間違えたでしょうか。あせらなくても普通に打てば正確に打ち終えることができるはずです。
試験の開始時には試験官が立ち会っていましたが、始まると席をはずされていました。全てを打ち終えた後に手を挙げると、終了したことを確認され「終わりましたね」と言っていただきました。
このことからも、打ち終えれば合格というのは間違いないと思います。
通信術の試験は、他に欧文・和文の送話・受話の試験があります。これはアマチュア無線をやっていれば問題ないですし、やっていない方でも1ヶ月ほど訓練したら問題なく合格点を取れると思います。
(注:和文は現在試験科目からはずれています。)
余談ですが、私の受験した地方では、受験者数が少ないためか一・二総通の電気通信術の試験は同時に行われます。受験者の多い地方では午前・午後などで分けて受験できるようです。
また、通信術だけは、受験日が異なればかけもち受験も可能なようです。もちろん、受験料、交通費などは必要です。
試験結果は次のとおりです。
一総通(平成12年9月期)
電信受信(いずれも推測)
和文 80〜90点 (7〜8文字程度の脱字、誤字不明)
欧文暗語 95〜100点 (誤字・脱字等なし?)
欧文普通語 75〜85点 (10文字程度の脱字、誤字不明)
電信送信
和文 99−α点 (3字訂正、誤字なし、30秒時間残し)
欧文暗語 99−α点 (3字訂正、誤字なし、15秒時間残し)
欧文普通語 99−α点 (2字訂正、誤字なし、25秒時間残し)
電話送話・受話
多分、満点?
直接印刷電信
2〜3分で打ち終えるも、30回以上(?)誤打 - 法規
ただひたすらに問題集を何回もやりました。出来るだけ幅広いクラスの問題をやることにより、知識だけでなく出題のクセもつかめるようになり新問にも対応出来るようになります。
一・二総通の問題を中心に何度も繰り返しましたが、過去に勉強した三総通や航空通の知識も結構役立ちました。
陸技の法規は少々傾向が異なるようです。操作範囲から考えるといつ出題されてもおかしくないので一通り勉強しておく方が良いと思いますが、わざわざ問題集を買ってまでする必要があるかどうかは何とも言えません。
個人的には、陸技を受験され、その延長戦で通信士を受験されるのが良いと思います。
試験結果は次のとおりです。
二総通(平成12年9月期) A問題 17/20 B問題 24/25
一総通(平成13年3月期) A問題 20/20 B問題 25/25 ・・・つまり満点! - 英語
学生時代から苦手な科目です。通信術と並び大きな壁と位置づけていました。
最初、問題集をやってもさっぱりできません。問題の意味がわからないレベルでした。特に業務英語がさっぱりわからないのです。
どうしていいのかわからないので、開き直って問題集の業務英語のみを何回も学習するようにしました。
すると、何か出題のクセがわかるようになりました。この業務英語はくせもので、かなり英語のできる人でも
それなりの勉強をしていないととまどうかもしれません。しかし、私のように英語が出来なくても、業務英語さえ押さえておけば合格点は取れるでしょう。
他の科目は4〜5者選択ですが、英語は3〜4者選択であることも多少気を楽にさせてくれます。
ヒアリングも業務英語を覚えなければいけません。若い頃からアマチュア無線やBCLをやっていたので、それなりに耳は付いていけると思っていましたが、やはり業務英語は特殊な世界です。
しかし、覚えてしまえば確実に得点出来るでしょう。テープで流れる質問のイントネーションの高いところに注目するとか、事前に選択肢をしっかりと読んでおくことなどにも注意したらいいでしょう。
試験のレベルですが、操作範囲などからみると「一総通>二総通>航空通」のようですが、実際には「航空通>一総通>二総通」と感じました。また、英語は法規と平行して勉強すると相互に理解が深まるものと思います。
試験結果は次のとおりです。
二総通(平成12年9月期) A問題 9/9 B問題 15/15 英会話 7/7
一総通(平成13年3月期) A問題 9/9 B問題 14/15 英会話 7/7 - 地理
これも問題集をやるのみです。しかし、これだけだと微妙に紛らわしい地名を正しく理解できないかもしれません。白地図などに苦手な地名をまとめておくといいでしょう。私は「通信交通地理」(電気通信振興会)の後半部分の地図を活用しました。無線従事者の試験勉強は問題集中心で参考書はほとんど使用しなかったので、ほぼ唯一使った参考書と言っていいでしょう。
試験結果は次のとおりです。
二総通(平成12年9月期) 35/40
一総通(平成13年3月期) 31/40 - 最後に
受験を思い立って約1年半で、幼いころからの憧れであった一総通と一陸技の両資格を取得できました。
5年計画くらいでじっくり取り組もうと思っていましたが、受験した科目は全て合格できましたので、予想以上に早く目標を達成できました。
特に専門の勉強をしたわけでもなく、仕事に従事しているわけでもないのですが、運と「絶対に合格するんだ!」
という気合いのみで合格出来たのだと思います。現在の仕事を続ける限りこれらの資格が役立つことはまずありません。定年退職後、どこかの放送局や無線局で働きたいと思うこともあります。もちろん、私のようなペーパーライセンスで勤まる職場とは思っていませんが。しかし、「いつかは必ず役立てたい!」という気合いだけは忘れないようにしたいと思います。
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